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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)2309号 判決

控訴人(原告) 廣部文樹 外一名

被控訴人(被告) 黒川乳業株式会社

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人廣部文樹に対し金一〇一万〇一〇一円、控訴人田野尻聖子に対し金一〇〇万九三五八円及び右各金員に対する平成元年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり訂正する外は、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏二行目の「組合という」を「組合ないし本件組合という」と、同三枚目表初行冒頭から同三行目末尾までを次のとおりそれぞれ改める。

「そして、二日の休日のうち一日を日曜日とすることは労使間で当然のこととされたが、他の一日(以下「指定休日」といい、指定された曜日を「指定曜日」ということがある)を何曜日にするかは、各部署毎に部署内部での話し合いによって定められることとなり、控訴人両名が所属していた本社及び大阪営業所の各事務部門においては、これを土曜日と定められた。」を加える。

二  原判決七枚目表三行目冒頭から同九行目末尾までを次のとおり改める。

「1 本件賃金カットは違法か。即ち、控訴人らは、平成元年二月二五日に就労義務があったか。

(一)  控訴人らの平成元年二月の第四週における日曜日以外の休日は、本来の指定休日であった二五日か、それとも二四日か。

(二)  控訴人らに、右二五日を休日とするか二四日を休日とするかについて選択権があったか。」

第三証拠〈省略〉

第四争点に対する判断

一  証拠によって認定できる事実は次のとおり加除、訂正する外は、原判決の「事実及び理由」中の「第三 判断」欄の「一」(原判決八枚目表三行目冒頭から同一五枚目表一〇行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表四行目の「一七、一八、」を削除し、同行の「三四、」の次に「六〇、六七の1、2、六八、七〇」を加え、同裏四行目から五行目にかけての「名称変更により大阪営業所付」を「組織変更により大阪営業所販売経理係」と改める。

2  同九枚目表三行目冒頭から同一二枚目表八行目末尾までを次のとおり改める。

「2 週休二日制の実施に至る経緯と内容

(一) 被控訴人会社においては、日曜日、祝祭日、創立記念日、メーデーが休日とされていたが、昭和四九年三月ころから、労使の交渉事項として週休二日制の導入問題が取り上げられるようになり、同年四月一八日に被控訴人会社及び組合間で締結された協定(甲一五)には、『一日七時間労働を基礎とした週休二日制については可及的速やかに労使が協議し実施するように努力する。』との一項が設けられた。

(二) 被控訴人会社は、同年九月三〇日、組合に対し、『週休二日制導入における会社の基本的考え方』と題する書面(以下『基本的考え方』という、乙四)を交付し、週休二日制導入問題についての基本的考えを示した。右書面の第2項には、『一週間の労働時間が三五時間であることから、祝祭日、特定休日のある週の場合は、それ等が代替わりする。』との記載があった(なお、右の『特定休日』の概念は、被控訴人会社において必ずしも一義的に用いられていないが、本書面においては、被控訴人会社の創立記念日及びメーデーを指すものと解せられる。なお、以下、祝祭日と創立記念日及びメーデーを併せて『祝祭日等』という)。

(三) 組合は、『基本的考え方』が示された直後の機関紙(甲一四)で、会社の提案内容を『祝祭日の休日廃止』と表現してこれに反対し、完全週休二日制(即ち、祝祭日等は従前どおり休日とし、それ以外に一週間のうち二日を休日とする制度)の獲得を目指す姿勢を示した。以後労使間で幾度となく団体交渉が持たれ、組合は完全週休二日制を要求したが、被控訴人会社は、これを固く拒否した。やむなく組合は、次善の策として被控訴人会社の右方針を受け入れることとし、昭和五〇年九月二五日、被控訴人会社と組合間で本件協定が締結された。本件協定には次のように記載された。

『一 昭和五〇年一〇月一日より一日七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時間で週休二日制を実施する。したがって祝祭日及び創立記念日を含む週三五時間労働とする。

二  週休二日制導入に際し、現行の夏期休暇六日を五日に短縮する。

三  メーデーについての取扱いは週休二日制実施後の経過をみて昭和五一年一月ころ再検討する。』

なお、本件協定と同時に被控訴人会社と組合間で覚書(乙六)が交わされ、本件協定の祝祭日及び夏期休暇については、今後その休日の実現を目指し努力することが約束された。

また、被控訴人会社は、そのころ黒川労組との間でも、本件協定と同旨の協定を締結した。

(四) ところで、週休二日のうち一日を日曜日とすることは労使間で当然の前提であったが、その余の一日(指定休日)を何曜日にするかについては、各部署毎の実情に合わせるため、本件協定では定められず、各部署における話し合いに委ねられることとなった。そして、本件協定を受けて各部署で話し合いがもたれた結果、連休をとることが差し支える部署では木曜日ないし金曜日、特段の差し支えがない部署では土曜日と定めることが多く、控訴人田野尻が所属する本社総務部販売経理係では土曜日(但し、土曜日に全員が休むことは差し支えがあるため係長のみ月曜日)と、控訴人廣部が所属する本社総務部会計係では土曜日とそれぞれ定められた。

(五) 同年九月一五日発行の組合の機関紙(乙一四)では、被控訴人会社の提案が、祝祭日は廃止する、祝祭日は休んで指定曜日は出勤するとの案であると紹介しつつ、これを批判している。

(六) 同月三〇日発行の黒川労組の機関紙(乙一七)には、明日から実施される週休二日制の部署毎の内容説明の記載があるが、これには、本社総務部販売経理係及び会計係について、『土曜日を休日とし、祝祭日のある週はその日を充当する』旨の記載がある。

(七) 同年一〇月九日に本社総務部が全社員に配付した『週休二日制の実施について』と題するビラ(乙一六)によると、実施要領として、『日曜日と毎週木曜日を他の休日とする週休二日を基本とし、一部金曜、土曜を休日とする。同じ週に祝日のある週はこれを振り替える』と記載されている。また、各部署の実施内容の一覧表には、豊中工場の営業課では祝日振替がないが、その余の部署ではすべて祝日振替がある旨の記載がある。

(八) 同月一〇日発行の被控訴人会社の社内報(乙一五)には、週休二日制実施要領として『一日七時間を基礎とした一週三五時間の労働時間の週休二日制(週五日制)で祝日は含まれる(祝日のある週は振替)』との記載があり、また各部署毎の実施内容を記載した部分には『祝祭日のある週は日曜日と祝祭日となる(本社営業部はケースバイケース)』との記載がある。なお、右部分の原稿を作成したのは本件組合員である。

(九) 週休二日制実施後、控訴人らを含む被控訴人会社の社員は、指定曜日に休むとともに、祝祭日等のある週は原則的には祝祭日に休み、指定曜日に出勤した。もっとも例外的に、業務の都合(例えば、業務の性質上連休がとれない部署においては、土曜日又は月曜日が祝祭日等に当たる場合は、出勤する例が多かった)等から祝祭日等に出勤することもあったが、日曜日に出勤した場合とは異なり、割増賃金は支払われなかった。

(一〇) 被控訴人会社と黒川労組は、昭和五二年九月一日から週休二日制を廃止し、六日制勤務の週四〇時間労働制をとる旨の協定を締結した。以来、被控訴人会社内では本件組合員だけが週休二日制をとることとなった。」

3 同一四枚目裏六行目の「法律」の次に「(以下「祝日法」という)」を、同一五枚目表二行目の「、三」を削除し、同六行目末尾に続いて改行の上、次のとおりそれぞれ加える。

「なお就業規則第二四条に基づいて制定された賃金規則第七条には、休日労働には割増賃金を支払う旨定められている。」

二  主たる争点1(賃金カットの違法性)について

1  一で付加、訂正の上引用した事実に基づき、本件協定の実施により、祝祭日等のある週における本件組合員の休日が何時と定められたと解すべきであるかについて検討する。

(一) 本件協定の文面上は、祝祭日等のある週においても休日は二日であることは明示されているが、日曜日以外の休日が指定曜日になるのか祝祭日になるのかについては明示されていない。

(二) しかしながら、被控訴人会社は、既に「基本的考え方」において、「代替わり」との表現を用いて、祝祭日が休日となる(以下「当然振替」ということがある)旨の考え方を提示していたこと、その後の団体交渉において、完全週休二日制の採用の可否を巡って議論がなされたものの、被控訴人会社の提案どおり祝祭日を含めた週休二日制を採用した場合に祝祭日等のある週の休日をいつにするかについては議論された形跡が証拠上認められないこと、組合は最終的には完全週休二日制の要求を断念して被控訴人会社の提案を受け入れたが、右受入れに際し、当然振替の問題について留保した形跡は証拠上認められないこと、本件協定成立後に被控訴人会社によって全社員に配付されたビラ及び社内報のいずれにも、原則として当然振替になる旨の記載があり、そのころ発行された組合及び黒川労組の機関紙にも同様の認識が示されていること等に鑑みると、本件協定成立によって、全社的に、祝祭日のある週の休日は原則的に祝祭日に当然振り替えられるとの理解がなされたものと推認できる。

なお、組合は、前記『基本的考え方』が示された直後に発行された機関紙(甲一四)で、会社の提案内容を『祝祭日の休日廃止』と表現し、本件協定締結直後に発行された機関紙(甲一三)でも、右協定内容を『祝祭日なし』と表現しているが、右各表現は、本件協定実施後、祝祭日が出勤日になるとの認識を示したものではなく、祝祭日があっても休日が増える訳ではないし、また祝祭日に出勤しても割増賃金が支払われないことから、実質的には祝祭日が廃止されたに等しいとの認識を示したものと解するべきであって、右推認を妨げない。

(三) 以上の事実によれば、本件協定によって、就業規則のうち、祝祭日を休日とする部分は廃止され、新たに労働基準法上の「休日」とは異なって割増賃金の対象とならない指定休日が毎週一回、各部署毎に曜日を指定して設けられるとともに、祝祭日等のある週には原則としてその祝祭日等が指定休日となり、指定曜日は出勤日となる旨定められたものというべきである。そして、前認定の事実によれば、控訴人らが所属する部署(但し、販売経理係長を除く)では、指定曜日を土曜日とするとともに、祝祭日等がある週の扱いについては右原則どおりとされたことが推認できる。

2  ところで控訴人らは、控訴人らが所属する部署においては、祝祭日等がある週に、その祝祭日等を休日とするか、指定曜日を休日とするかについて、各労働者に選択権が与えられた旨主張し、証人神田朝男、同朴時夫、控訴人両名の供述中には右主張に沿う部分があるが、右証人二名の各供述部分はいずれも伝聞であり、又控訴人らの供述部分も内容が曖昧であって、にわかに信用できない。また、控訴人らは、本件協定実施後の運用実態において、(1)祝祭日に出勤している例があること、(2)祝祭日と指定曜日の両方を休む場合に、前者を有給休暇ないし生理休暇、後者を公休として処理されている例があること等も右主張の根拠にするところ、なるほど、乙二二、二三、二七ないし六二(各枝番を含む)によると右各事実が認められるが、黒川京正の証言及び弁論の全趣旨によると、(1)は例外的に業務上の必要がある場合に止まり、(2)は、いずれにしても割増賃金の問題が生じないため取扱いに厳密さを欠いたことから生じたものと認められ、一で引用した事実にも照らすと、右(1)(2)の各事実から、労働者に選択権が与えられていたとの控訴人らの主張事実を認めることは到底できない。

3  次に、本件協定によって当然休日が振り替えられるものとされた「祝祭日」に本件休日が該当するか否かについて検討する。

(一) 本件協定において、指定休日が「祝祭日」に当然振り替えられるものとされた理由は、祝祭日には被控訴人会社の取引先等も休むことが多く、指定曜日を休むより祝祭日を休む方が被控訴人会社の業務上好都合であること及び被控訴人会社の社員としても、指定曜日に休むよりも官公庁、学校及び勤労者の大部分と同様に祝祭日に休むことを希望するのが一般であること等にあるものと解せられる。

(二) 本件協定実施後、被控訴人会社では、国民の祝日のみならず、祝日法三条二項で定められた休日(国民の祝日が日曜日に当たる場合の翌日)も指定休日が当然振り替えられる日として扱われていた〔乙八、一三、乙二二、二三、二七ないし六一(各枝番を含む)〕が、同法三条三項で定められた休日(その前日及び翌日が国民の祝日である日)も指定休日が振り替えられた。

(三) (一)で判示した趣旨及び(二)で認定した事実に鑑みると、指定休日が当然振り替えられる「祝祭日」とは、祝日法で定められた「国民の祝日」のみならず、同法三条二項、三項で定められた休日及びその他の法律で定められた休日も含まれるものと解するのが相当である。

そして、平成元年二月二四日は、大喪の礼休日法により休日とされ、その附則二条により、「休日を定める他の法令の規程の適用については、当該法令に定める休日とみなす」とされたのであるから、右「祝祭日」に該当するというべきである。

4  以上の事実によれば、控訴人らの平成元年二月第四週における日曜日以外の休日は二四日であり、二五日は出勤日であったというべきであるから、同日に出勤しなかった控訴人らに対して賃金カットをした被控訴人会社の措置に何らの違法はなく、控訴人らの本訴請求のうち未払賃金の支払いを求める部分は失当である。

三  主たる争点2に対する当裁判所の判断は、原判決二〇枚目表二行目冒頭から同二一枚目表三行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。

四  (まとめ)

以上の次第で、控訴人らの本訴請求はいずれも失当であり、これを棄却した原判決は正当である。よって、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山中紀行 武田多喜子 井戸謙一)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告らの請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告は、原告廣部文樹に対し、一〇一万〇一〇一円、原告田野尻聖子に対し、一〇〇万九三五八円及び右各金員に対する平成元年三月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、被告黒川乳業株式会社(以下、被告会社という。)の従業員である原告らが、被告会社が大喪の礼の行われた平成元年二月二四日を休日とし翌二五日を出勤日と指定し、二四日に出勤した原告らに就業させず、二五日に休んだ原告らの賃金をカットしたこと及び同月二四日を休日として原告ら組合員に服喪を強制した行為は不法行為であるとして、賃金請求権及び不法行為による損害賠償請求権に基づき、カットされた賃金分及び慰謝料の請求をした事案である。

一 争いのない事実等

1 当事者

原告らは、被告会社に雇用された従業員であり、関西単一労働組合黒川乳業分会(以下、組合という。)に加盟している。

被告会社は、乳製品の製造販売等を業とする会社である。

2 労働協約の存在

組合は、昭和五〇年九月二五日、被告会社との間において、労働時間に関し、「昭和五〇年一〇月一日より一日七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時間で週休二日制を実施する。したがって、祝祭日及び創立記念日を含む三五時間労働とする。」との協定書(以下、本件協定という。)を交わした。

そして、そのころ、本件協定の運用につき、被告会社の本社及び大阪営業所事務部門勤務の従業員の休日を土曜日及び日曜日とすることが合意された。

3 被告会社の違法行為

(一) 被告会社は、「平成元年二月二四日」を休日とする旨決定し(以下、本件休日という。)、同月二〇日、被告会社の全従業員に対しこれを公示した。

(二) 原告らは、同月二四日、被告会社へ出勤したが、被告会社本社建物は閉鎖されており、中に入ることができなかったので、やむなく退社した。(ただし、同月二四日、被告会社本社建物が閉鎖されていたこと以外の事実は、原告らの供述により認める。)

被告会社は、同月二五日を出勤日とし、この日に休んだ原告らを欠勤扱いとし、原告廣部文樹(以下、原告廣部という。)について一万〇一〇一円、原告田野尻聖子(以下、原告田野尻という。)について九三五八円の賃金をカットした。

二 原告らの主張

1 本件協定の運用につき、被告会社の本社及び大阪営業所事務部門勤務の従業員の休日を土曜日及び日曜日とすることと合意されたことは前記のとおりであるが、加えて、ある週に祝祭日があるとき、その祝祭日に出勤するか、その祝祭日を休み、その週の土曜日を振替出勤日とするかは当該従業員の判断に委ねることが合意された。

2 しかるに、被告会社は、当該組合員の意思に反して一方的に同月二四日を休日として就労を拒否し、翌二五日を出勤日と指定した(以下、本件出勤日という。)ことは、本件協定に違反するばかりか、労働基準法(以下、労基法という。)二条に違反する違法な行為である。

3 被告会社は、「昭和天皇の大喪の礼の行われる日を休日とする法律」(平成元年二月一七日法律第四号)(以下、大喪の礼休日法という。)を根拠に同月二四日を休日としたのであるが、右大喪の礼休日法は違憲無効な法律であるところ、被告会社が同月二四日を休日とした行為は、とりもなおさず原告ら組合員に対し、強制的に昭和天皇の死去に弔意を表し、喪に服さしめることに他ならず、かかる原告ら組合員に対する服喪の強制は、原告ら組合員の思想信条の自由(憲法一九条)、勤労の権利(憲法二七条)、団体交渉権と労働協約締結権(憲法二八条、労働組合法六条)を侵害する違憲・違法な行為であるし、また、少なくとも公序良俗(民法九〇条)に反する違法な行為である。

4 原告らは、従来から昭和天皇の喪に服することに反対しており、二月二四日を休むことは喪に服することになるから、勤務することを選択したにもかかわらず、被告会社は、建物を閉鎖して原告らの就労を妨害し、もって昭和天皇の喪に服さしめた。原告らは、自らの信条に反してこのような取扱いを受けたことにより、耐えられない屈辱を味わった。その精神的苦痛を慰謝するに要する慰謝料は各一〇〇万円を下らない。

5 よって、原告らは、被告に対し、賃金請求権及び不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告廣部において一〇一万〇一〇一円、原告田野尻において一〇〇万九三五八円とこれに対する賃金支給日の翌日であり、かつ、不法行為の日の後である平成元年三月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三 被告会社の主張

1 被告会社は、昭和五〇年九月二五日、組合との間で、本件協定を締結し、その後、その具体的運用について、本社と大阪営業所事務部門の従業員の休日を土曜日及び日曜日とすることについて合意されたことは前記のとおりであるが、ある週に祝祭日があるときの取扱いについては、その祝祭日を振替休日とすることは、本件協定締結時に被告会社と組合間で明確に合意されていた。本件問題が発生するまで、右の合意に従って運用されてきたのであり、組合及び原告らから被告会社に対し、異議が申し出られたことはない。

2 被告会社は、平成元年二月二四日の大喪の礼の日の取扱いについて検討し、同日を休日とすることを定めた大喪の礼休日法が制定されたこと、他の会社や組織体がこれを受け入れていること、被告会社の得意先の学校や喫茶店等がほとんど休みであること等から二月二四日(金曜日)を祝祭日と同様に扱い、当日を振替休日とし、二月二五日の土曜日を出勤日とする旨決定し、同月二〇日付けで「二月二四日(金)を本年に限り、休日とします。」との公示を行ったのであり、何ら違法、不当なものではない。

3 原告らは、被告会社が平成元年二月二四日を休日扱いしたことをもって、組合員に対する服喪の強制であるとし、それ故、被告会社の右取扱いは思想信条の自由を保障した憲法一九条に違反する旨主張するが、そもそも思想信条の自由を保障する憲法一九条の規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由を保障する目的に出たものであって、もっぱら国又は公共団体と個人との関係を規律するものに過ぎず、本件におけるような私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。また、原告らは、大喪の礼休日法を憲法一九条に違反する旨主張するが、憲法二条に基づき制定された皇室典範二五条に規定された昭和天皇の大喪の礼に際し、六〇有余年に及ぶ昭和天皇の在位における遺徳をしのび、国民こぞって弔意を表すため、大喪の礼が行われる二月二四日を休日とする旨規定した右法律が天皇制を自ら明定する現行憲法に違反するものでないことは明らかである。

四 主たる争点

1 本件賃金カットが適法かどうか。

(一) 被告会社が平成元年二月二四日を休日に指定したことは適法か。

(二) 被告会社が右同日を指定休日であった同月二五日の振替休日とし、同日を出勤日としたことは適法か。

(三) 原告らに同月二四日を休むか、同月二五日を休むかの選択権が認められるか。

2 被告会社が大喪の礼の行われた平成元年二月二四日を休日と指定したことが不法行為を構成するか。

(一) 被告会社が大喪の礼の行われた平成元年二月二四日を休日と指定したことが、原告ら組合員に対し、強制的に昭和天皇の死去に弔意を表し、喪に服さしめることになるか。

(二) 原告ら組合員に対する服喪の強制は、憲法一九条に保障された原告ら組合員の思想信条の自由(憲法一九条)、勤労の権利(憲法二七条)、団体交渉権と労働協約締結権(憲法二八条、労働組合法六条)を侵害する違憲・違法な行為であるし、また、少なくとも公序良俗(民法九〇条)に反する違法な行為であるか。

五 証拠〈省略〉

第三判断

一 前記争いのない事実に証拠(甲一ないし三、五、六、一五、一七、一八、三四、乙一ないし七、八の1ないし3、九の1ないし3、一〇の1ないし3、一四ないし一七、一九、二一の1、2、二二の1ないし24、二三の1ないし29、二四の1ないし3、二六、二七ないし二九の各1ないし5、三〇の1ないし6、三一、三二の各1ないし5、六二の1ないし6、証人神田朝男、同朴時夫、同黒川京正、原告廣部、同田野尻、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。

1 当事者等

原告廣部は、昭和四八年三月二四日、被告会社に入社し、以来、被告会社本社総務部会計係に勤務している者であり、原告田野尻は、昭和五〇年二月に被告会社に入社し、以来、被告会社本社総務部販売経理係(その後名称変更により大阪営業所付)に勤務している者である。

被告会社においては、昭和四七年一一月二七日に組合が結成され、同年一二月五日に総評全国一般黒川乳業労働組合(以下、黒川労組という。)が結成された。

原告廣部は、被告会社入社当時は右いずれの労働組合にも加入していなかったが、昭和五一年六月に黒川労組に加入し、同年一二月五日には組合に加入した。また、原告田野尻は、入社後黒川労組に加入していたが、昭和五一年六月に組合に加入した。

2 週休二日制の実施に至る経緯と内容

(一) 被告会社においては、昭和四九年三月ころから週休二日制が労働組合との交渉事項として取り上げられるようになり、同年四月一八日には「一日七時間労働を基礎とした週休二日制については可及的速やかに労使が協議し実施するように努力する。」との協定(甲一五)が組合との間で締結された。

このような状況に対応して被告会社は、組合に対し、同年九月三〇日付けの「週休二日制導入における会社の基本的考え方」との書面(乙四)をもって被告会社の考え方を示した。右書面によると、「一週間の労働時間が三五時間であることから祝祭日、特定休日のある週の場合はそれ等が代替りする。又夏、冬の特別休暇も現行の六日間から五日間に縮小する。」等を骨子とするものであった。

(二) 被告会社の右提案を受けて労使間において協議がなされたが、組合は、祝祭日等のほかに指定休日を定めるいわゆる完全週休二日制の実施を主張した。被告会社は、完全週休二日制の実施には容易に応じず、祝祭日のある週はその祝祭日を休み、指定された休日は出勤日とするとの主張を変更することがなかった。その結果、被告会社と組合は、昭和五〇年九月二五日、週休二日制について、「一、昭和五〇年一〇月一日より一日七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時間で週休二日制を実施する。従って祝祭日及び創立記念日を含む週三五時間労働とする。二、週休二日制導入に際し現行の夏季休暇六日を五日に短縮する。三、メーデー(五月一日)についての取扱いは週休二日制実施後の経過をみて昭和五一年一月頃再度検討する。」ことを骨子とする本件協定(乙五)を締結するとともに、右協定の祝祭日及び夏季休暇については今後その休日の実現めざし努力する旨の覚書(乙六)が取り交わされた。なお、被告会社は、黒川労組との間でも本件協定と同旨の協定を締結した。

(三) 被告会社は、本件協定締結後、その実施のために各職場等において協議した結果、日曜日以外の指定休日として、部署によって、木曜日、金曜日あるいは土曜日が定められ、祝祭日のある週は日曜日と祝祭日が休日になり、指定日が出勤日となる(ただし、営業部豊中営業課においては、指定休日を固定)とされた。原告らが所属する被告会社本社総務部販売経理係においては土曜日(ただし、係長は月曜日)が、会計係においては土曜日がそれぞれ指定休日と定められ、祝祭日のある週は日曜日と祝祭日が休日になり、指定日が出勤日とされた。そして、被告会社は、右のような週休二日制の実施を「週休2日制の実施について」との書面(乙一六)に記載して全従業員に配付して周知させ、かつ、同様の内容を社内報「MONTHLYくろかわ」(乙一五)に掲載して全従業員に配付して周知させた。また、黒川労組も右と同様の内容の週休二日制の実施を機関紙「スクラム」(乙一七)に掲載している。なお、組合は、本件協定締結後の機関紙に、祝祭日が廃止された旨掲載している(甲一三、一四)が、その趣旨は、完全週休二日制を主張した組合が、祝祭日のある週は指定休日をその祝祭日に振り替えて、「指定休日」と扱うとの被告会社の主張を受け入れた結果、祝祭日(割増賃金の支給対象の休日であった。)がなくなったとの評価から、右のような広報を行ったものと認める。

(四) 被告会社における週休二日制は、右のような経緯をもって昭和五〇年一〇月一日から実施された。右週休二日制実施後、原告らを含む従業員は、基本的には指定された日に休むとともに、祝祭日のある週は祝祭日に休み、指定された休日に出勤した(乙八の1ないし3、九の1、2、一〇の1ないし3、二一の1、2、二二の1ないし24、二三の1ないし29、二四の1ないし3、二六、二七ないし二九の各1ないし5、三〇の1ないし6、三一、三二の各1ないし5、六二の1ないし6)(ちなみに、原告ら被告会社本社総務部に勤務する従業員は、本件協定実施後最初の祝日である体育の日(一〇月一〇日)に休み、その週の土曜日に出勤している(乙二三の1)。)が、業務の都合、連休となるためあるいは会社の一斉休業等の事情から右とは異なる実施がなされることも一部にあった(乙一九、二六)。なお、被告会社は、黒川労組との間で、昭和五二年九月一日から週休二日制を廃止し、六日勤務の週四〇時間労働制を取る旨の協定を締結した。

3 本件休日の決定と本件出勤日の指定について

(一) 昭和天皇は、昭和六四年一月七日に死亡し、平成元年二月二四日に大喪の礼が行われることが決定されるとともに、同月一七日、大喪の礼休日法が公布・施行された。右法律附則2項は、「この法律に規定する日は、休日を定める他の法令の規定の適用については、当該法令に定める休日とみなす。」旨規定されている。

(二) 天皇制に反対する原告ら組合は、被告会社に対し、昭和六三年九月二六日付け書面をもって「貴社は、労働者に天皇の葬儀や喪に服する一切の指示や儀式……を行わないこと、平常どおりの業務を行うこと」などを申し入れ、同年一二月二〇日、被告会社との間で団体交渉を行った際、天皇死亡時について、喪に服することは労働問題に抵触するので、その時は団体交渉をして欲しい旨申し入れ、また、平成元年一月九日には「国家葬当日を休日とせず平常どおり業務を行うよう」との申入れを行った。さらに、組合は、同月二〇日の団体交渉の席において、被告会社に対し、「二月二四日の国家葬については休日とせずに平常どおり業務を行うこと、休日とすることは労働条件の変更になる。」旨の申入れを行った。これに対し、被告会社は、二月二四日を休日にするかどうかはまだ決定していないこと、右休日にすることが労働条件の変更に当たるとすれば、労働組合との交渉が必要であると考えている旨回答した。

(三) その後、被告会社は、大喪の礼当日の扱いについて検討をしたが、二月二四日が大喪の礼休日法によって休日とされたこと、他の会社や組織体がこれを受け入れていること、被告会社の得意先である学校や喫茶店などがほとんど休みであること等を考慮し、右同日を休日とすることを決定し、同月二〇日、被告会社の全従業員に対し、「来る二月二四日(金)を本年に限り休日とします。」との公示を出し、併せて、組合の神田朝男分会長に対し、「大喪の礼の日について、従来の休日・祝日と同様の扱いとすることにした。所定労働日数も運用の方法も変わることはないので、労働条件の変更とはならない。したがって、今までどおり振替の方法で、二四日を休んで二五日に出勤しなさい。」と告知した。しかし、被告会社は、右公示・告知以外に原告らを含む被告会社従業員に対し、昭和天皇の死去に弔意を表し、喪に服することを求めたり、弔意を表し、喪に服することがなかった場合に不利益あるいは懲罰を課することを告げるなどすることは一切なかった。

そして、被告会社は、平成元年二月二四日を休日として本社事務室等を閉鎖して原告らの労務提供を拒んだが、同月二五日(土曜日)の原告らの指定休日は従前からの扱いに従い同月二四日に振り替えられたものとし、同日に出勤しなかった原告らの賃金をカットした。

4 被告会社における就業規則上の休日の扱い等について

被告会社の就業規則は、昭和三三年三月一日から施行されている。同規則九条一項は、毎日曜日を休日と定めていたが、昭和四〇年一二月二五日に同条に二項が加えられ、同項において、特定休日として、元旦(一月一日)、成人の日(一月一五日)、建国記念の日(二月一一日。昭和四二年二月四日追加)、春分の日(三月二一日又は二二日)、天皇誕生日(四月二九日。なお、国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律(平成元年法律第五号)により「みどりの日」と改められた。)、憲法記念日(五月三日)、こどもの日(五月五日)、敬老の日(九月一五日。昭和四一年七月五日追加)、秋分の日(九月二三日又は二四日)、体育の日(一〇月一〇日。昭和四一年七月五日追加)、文化の日(一一月三日)、勤労感謝の日(一一月二三日。ただし、就業規則の「二二日」は誤記と認める。)を定めており(乙二、三)、組合との間においても、昭和四八年三月二七日、同年一月一日から全国定祝日を有給休日とすること、祝日が日曜日と重なったときは、翌日を休日とする旨の協定(甲三四)を締結している。

被告会社においては、祝日法三条三項によって休日とされた昭和六三年五月四日を本件協定の祝祭日と同様に扱って休日とし、その週の指定休日を勤務日としたが、組合は、これに異議を述べなかった。

二 主たる争点1(賃金カットの適法性)について

1 主たる争点1(一)について

労基法は、使用者は労働者に対し、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならず、その休日の与え方として四週間を通じて四日以上の休日を与えることをもって足りる旨を規定している(三五条一、二項)ところ、右認定の事実によると、被告会社においては、就業規則において、毎週日曜日を休日と定めており、右をもって労基法に定める休日の要件は充足しているものということができる。ところで、本件において問題とされる本件休日は、労基法三五条一項所定の休日以外の休日であることは明らかであるところ、休日の法的効力が労働義務の免除であり、これをもって労働者に何らの不利益を与えるものでないことを考慮すると、使用者は、労働者の同意がなくとも休日を定めることができるものというべきである。そして、被告会社は、平成元年二月二四日が大喪の礼休日法によって休日とされたことや他の会社や組織体がこれを受け入れていること、被告会社の得意先である学校や喫茶店などがほとんど休みであること等を考慮して本件休日を決定したものであり、その措置は妥当なものであって、何ら従業員が有する法的保護に値する利益を侵害するものではない。もっとも、原告らは、大喪の礼休日法が違憲無効であることを根拠に本件休日を定めるべきでないと主張をしているようであるが、被告会社が右のような事情から本件休日を決定している以上、大喪の礼休日法が合憲かどうかは、本件休日の決定の効力を左右するものではなく、原告らの右主張は採用し難い。なお、休日についての定めは、その明確性・特定性の要請から就業規則等においてなすのが相当であるが、本件のように当年限りの休日については、公示をもって従業員に周知させることで足り、本件休日の決定には手続的にも問題とすべき点はない。

よって、被告会社が平成元年二月二四日を休日とする旨定めたことに何ら違法なところはない。

2 主たる争点1(二)について

右認定の事実によると、本件協定において、「昭和五〇年一〇月一日より七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時間で週休二日制を実施する。従って祝祭日及び創立記念日を含む週三五時間労働とする。」旨が定められ、日曜日以外の指定休日として、原告らが所属する被告会社本社総務部販売経理係及び会計係(本社及び大阪営業所事務部門)においては土曜日が定められ、祝祭日のある週は日曜日と祝祭日が休日になり、指定日が出勤日となることとされ、右の定めに従った運用がなされてきたことが認められる。また、本件協定締結後においても、就業規則の休日についての規定は改定されず、組合と被告会社との間で締結された昭和四八年三月二七日付け協定が解約されたことを認めるべき証拠もないことからすると、就業規則所定の特定休日(右協定上の国定祝日と同旨と解する。)を含む休日の規定は、その効力が本件協定の締結によって変更された余地はあるとしても、右規定の存在自体は否定し難いところ、本件協定と右就業規則等の規定を総合して合理的に解するには、右特定休日(祝祭日)のある週はその特定休日(祝祭日)が休日となり、他方、一日七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時間を崩さないためには、指定休日は出勤日となると解するのが相当であり、これが被告会社主張の指定休日を祝祭日に振り替えるとの本件協定締結時の合意と同旨となり、また、右の週休二日制の運用とも一致するのである。

そうすると、本件協定締結後、原告らが所属する被告会社本社総務部販売経理係及び会計係(本社及び大阪営業所事務部門)においては土曜日が指定休日と定められ、祝祭日のある週は日曜日と祝祭日が休日になり、指定日である土曜日が出勤日となるものということができる。

次に、本件休日をもって本件協定に定める祝祭日と同様に扱うことができるかについて検討する。

本件協定における週休二日制の趣旨は、一日の労働時間七時間を基礎とした一週間三五時間を前提として週休二日制を実施することにあるということができ、「従って祝祭日及び創立記念日を含む週三五時間とする。」との規定は、右の趣旨を当時実施されていた日曜日以外の休日との関係でより明確にするためになされたものと解するのが相当である。右のような本件協定の趣旨と、被告会社においては、国民の祝日に関する法律三条三項によって休日とされた昭和六三年五月四日(この日は、同法に定める休日ではあるが、国民の祝日ではない。)を本件協定の祝祭日と同様に扱って休日とし、その週の指定休日を出勤日とし、組合もこれに異議を述べていないこと、大喪の礼休日法においては、同法の定める休日は休日を定める法令の規定の適用については、当該法令に定める休日とみなす旨定められ、休日の取扱いとして特別の休日とせず、祝日などと同じように扱うことを求めていることを総合勘案すると、本件協定にいう「祝祭日」は、原則的には国民の祝日に関する法律に定める祝日を念頭においているものと解するのが相当であるが、それ以外の休日を排除するものでなく、その後の状況によって休日が定められた場合にはこれを含めて扱うことを許容するものであり、前記認定の本件休日決定の経緯に徴すると、本件休日は右「祝祭日」に準じた扱いをすることができると認めるのが相当である。

そうすると、本件休日をもって本件協定に定める祝祭日と同様に扱うことができるから、本件休日に代えて平成元年二月二五日を出勤日とした被告会社の扱いは、労働条件を一方的に変更するものでないし、本件協定及び労基法二条に反するものでないから、違法ではない。

3 主たる争点1(三)について

原告らは、ある週に祝祭日があるとき、その祝祭日に出勤するか、その祝祭日を休み、その週の土曜日を振替出勤日とするかは当該従業員の判断に委ねることが合意された旨主張し、証人神田、同朴、原告廣部及び同田野尻は右主張に沿う供述をするが、その根拠は伝聞であったり、曖昧であるなど信用し難いばかりか、前記認定事実に徴すると、到底採用できるものではなく、ほかに右主張事実を認めるに足る証拠はない。

4 よって、被告会社が行った本件賃金カットに違法なところはない。

三 主たる争点2について

1 主たる争点2(一)について

前記認定の本件休日決定の経緯に徴すると、原告ら主張のように本件休日を指定したこと自体をもって、原告らに対し、強制的に昭和天皇の死去に弔意を表し、喪に服さしめるものでないことはいうまでもない。このことは、平成元年二月一七日に公布・施行された国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律(平成元年法律第五号)により、一二月二三日が天皇の誕生日を祝う「天皇誕生日」と定められ、被告会社においては、本件協定に従い右天皇誕生日を指定休日の振替休日としているが、天皇制に反対する原告ら組合は、右措置をもって強制的に天皇の誕生日を祝わしめるものであるなどとは主張していないし、また、その日に休んでも天皇制反対闘争をしている(乙三、四四の1、五六の1、証人神田)というように、休日の設定をもってその休日の趣旨を強制的に実行させるものであるとも理解していないことに徴しても明らかである。また、前記認定の事実によると、被告会社は、本件休日を指定したものの、原告ら従業員に対し、喪に服することを強制するなど個人の自由等を侵害するような何らの行為をしたものでないということができ、ほかに原告ら主張のような服喪の強制の事実を認めるに足る証拠はない。

2 そうすると、右の主張が認められない以上、これを前提とする主たる争点2(二)の主張を含むその余の点について判断するまでもなく、原告ら主張の不法行為は成立しない。

四 以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却する。

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